運命両断剣!

そういう訳でまた拍手を更新しましたよ。
今回はまぁ、いつも通りかなりネタに特化したドタバタ系を。
やっぱりこれだと一日で書ききれる物だなと考えつつ、前回の拍手を公開します。




「ぐうっ!?」
 受け身を取る事すら出来なかった。自分に降りかかる惨状に成す術も無く享受するしかない己の無力さを嘆くしかなかった。
 倒れた俺の腹に対し闇から全力で落とされた踵。肺の中の空気を強引に押し出され、呻く事すら出来ない俺からは影の表情は見えない。
 ただしその勢いや力に対して戸惑いが無い事から、間違いなくその人物は俺に対して殺意に近い何かを抱いていた。
「誰、だ……?」
 ピタリと止まった足からはたった一つの感情しか伺えない。


 ――憎悪。


 極めてどす黒く、限りなく純粋なそれは全て自分に向けられている。
 俺が存在している事すら憎む。そう感じる程、目の前の何者かは躊躇無く攻撃を仕掛けてくる。
「…そうは、やらせん!」
「…ッ!」
 闇の中で唯一存在が確認されている脚を振り払い即座に体勢を整える。それでも目の前の人間だと思う存在はそれを予兆したかのように見惚れるほど華麗に着地からバク転により体勢をこちらより早く整えた。
 人間だと確信出来ない理由はただ一つ。今自分が見える範囲は踏みつけられた膝から下までの足。そして着地の際に取った肘から先の手だけだった。
 ――剣はある。無かったとしても最悪素手で戦う決心だけは付いていたからこればかりは幸いとも言える。
「一つだけ聞こう」
 ――痛みはあった筈なのに。
「……ここは」
 ――剣を握る手が滑るほどに汗をかいている筈なのに。



「夢、なのか?」



 唯一にして最大の疑問。感覚はあれど決してそれが現実味に繋がらないこの空間に取り残されたかのように、俺はその存在に答えを問うた。
「ねだるな」
 ――どこかで聞いた事がある。デジャ・ヴに似たそれを感じながら、その存在は答えてくれた。
「道は己の手で切り開け、それはお前が言う言葉だろう?」
 瞬間、全てが始まった。構えと同時に切り結ぶ切っ先が暗闇の中に火花を散らす。そうする事で、俺は目の前の相手が自分と同じように剣を持っている事を認識出来た。
 一撃一撃は重たく、回避されれば間違いなく自分の身を危うくする諸刃の剣。だがそうするしか選択肢は存在しない。
 目の前の闇に佇む存在と斬り合う事で、攻撃する事で、ようやくそれが何であるかを認識しつつある。
 いや、初めからそれが何であるかを理解していたのかも知れない。ただそれを認めたくない俺という矮小な人間がいた。
 新しく認識出来た事は、紛れもなく自分と同じような戦術を用いる大剣を踊るように繰る人間。
 剣。そう、剣だった。
「お前を斃せば、その答えを知る事が出来るというのだな!?」
「やれるのか? お前に、俺を? 笑わせてくれるな!」
「チィッ!」
 鍔迫り合いするほどに接近している筈なのに相手の顔を把握する事は出来なかった。闇味方しているかのように相手という情報をひた隠しする。
 拮抗というバランスが砕け、押し負かされた俺は相手の追撃とも言える蹴りをガードする手段は――無い。
「その隙――貰う!」
 またしても倒れた俺が見たもの、それは闇の中に揺らめく蒼き炎。紛れもなく火種は自分達特別捜査隊のメンバーであれば誰もが知るもの。


「…カード、オープン!」


 目の前の男は燃えさかるカードをまるで自分と同じように握り潰す。声質から推測出来ていたが、炎が明かりとなって服装からは八十神高校の男子学生服が垣間見えた。
 妙だ、と俺は訝しむ。
 おかしいと認識する事がおかしい。
 夢の中。大前提として存在するそれは、自分に対して常識という都合のいい判断基準をたちまち奪ってくれた。
 しかしこの男はおかしいと何故か認識出来た。
「行け! 我が同胞よ!」
 浮かび上がるペルソナは少なくとも俺が見た事は無い。だが、誰かのペルソナに似ていると朧気ながらそんな感想だけが浮かんだ。
 左手に巨大なパイルバンカーを持ちながらも両の手にはケープのように連なり立ち並ぶ細剣。それでいて本体は決して輪郭を見せず、召喚者と同じようにどす黒く発光している。
 その姿は、当人を除けば誰であろう俺自身が誰に似ているかを理解している。
「…まさか!」
「貴様は自分の子供すら忘れたのか!」
「――出よ、イザナギ!」
 考えるよりも行動。それに限る。奴のペルソナが何であるかを直感で理解し、言葉を聞いた瞬間全てを理解した。が故に俺はこのペルソナを出すという行動しか取る事が出来なかった。
 踵に一瞬だけ力が入る。その瞬間には距離を取っていた筈の俺と奴の距離は瞬く間にゼロに近くなる。
 小数点以下になろうとも、決してゼロに近づく事は無い。少なくとも俺がゼロとなる相手は彼女他ならない。
 理由は単純明快、何者であるかという仮説を事実という存在に持ち込む為。
「斬り払え! 奴ごと全てを!」
「バンカー! 奴を撃ち貫き、そして打ち砕け!」
「何ッ!?」
 巨杭は先手を打ったイザナギが振り下したナイフをも砕きながら、その勢いで俺へと左手を踏み込みながら振り抜いてくる。
「くぅぁっ!?」
 ナイフを砕いた際に軌道がぶれたおかげで右脇腹をかすっただけで止められた。その突進力は留まる事を知らず、恐らく背後にあったであろう壁を貫き、爆音を上げて火が噴いた。
 かすった程度。にも関わらずそれだけでも焼けるような痛みが退く事は無い。ましてや骨の一本や二本は軽く持って行ってしまわれたようにも感じられた。


 そのペルソナは神代紀において保食の神を屠った神。


「息子…いや娘だったか。どちらでも構わないが顔くらい覚えろよ、イザナギ


 その神は三柱の貴子と呼ばれる神の一人だった。


「お、お前は…!」
 今の俺の痛みは立ち上がる事すら容易ではない。それを理解した奴は一歩一歩、着実に俺に近づいてくる。
 その姿は自分と同じように八十神高校の制服を全開にし、上着とワイシャツが風になびいている。
「分かっているんだろう? 秋月慎哉と呼ばれた男よ」
「その言い回しは…」
 やはり、と改めて理解させられる。
 初めにそうだと思ったのはいつからだったか。ペルソナを出した時? 八十神高校の制服を着ているのを見た時? 剣で切り結んだ時? 否、違う。
 最初から理解していた。ただそれを認めたくなかっただけ。
 奴のペルソナが似ていると感じた元のペルソナ、それは紛れもなく俺の恋人のペルソナであるアマテラスに似ている。それは当然の事なのだろう。
 色は対であれどぼやけた輪郭。ケープのように連なる剣。アマテラスが右手に草薙の剣を持つのであれば、左手には保食の神を剣で撃ち殺した巨大な銃剣。
 何故似ているのか、答えは単純明快。男には女、白には黒、太陽には月があるように、合わせ鏡のそれが存在していた。
「……出よ」
 そのペルソナの名は――。




ツクヨミ!」




 二度目の揺らめく炎により垣間見えた『俺と全く同じ顔をした男』は、ペルソナを呼び出す事も出来ない俺に向かってバンカーを振り抜いていた。





【だから夢だって】

慎哉:うぉぉぉぉおお!?

柏木:……秋月君、廊下に立ってなさい。
慎哉:授業中だったのか。すっかり忘れてた。
柏木:バケツ持って立ってる?
慎哉:バケツ持って廊下に立つとかどれだけ昭和の匂いを漂わせる事にハグゥ!?
影村:あのセンコーに年齢を感じさせる話題を振るなよ。


【自業自得】

慎哉:酷い目にあった。
影村:本当に廊下に立ってるとかありえねぇよ。
影千枝:いいよねぇ、教師は。
影村:なんでだよ?
影千枝:だって権力を使えば誰だって生徒をひれ伏せるじゃん。
慎哉:いや、その発想はどうだろうか?
影雪子:……。
影千枝:何してんの雪子?
影雪子:え、何って……ちょっと授業中に目にゴミが入ったから鏡を使っているだけよ。
影千枝:ふーん。
影村:それにしても学校ってのは面倒だよな。
慎哉:そうか?
影村:たまーにフリーダムになりたくね?
影千枝:どんな感じよ?
影村:今日この学校の何かに爆弾を仕掛けたーとか。
慎哉:それはあなたの心です。
影村:お前のハートを起爆させちゃうぜ☆
影雪子:……さむ。
野郎二人:……orz


【一名を除いて帰っている】

慎哉:……あー。
影雪子:どうしたのかしら?
慎哉:ああ、一応全員の面倒を見なくちゃならなかったから、他のメンバー全員が帰らないと帰る訳にも行かず今に至る。
影雪子:ご説明ありがとう。まさかこんな日に先生から頼まれ事をする事になるとは思いもしなかったわ。
慎哉:世の中そう言うものだ。それにしても風が気持ちいいな、この屋上は。
影雪子:ええ。いつも千枝が放課後ここで誰かさんを待っているよね。
慎哉:誰かさんね。冬の寒空の中でも待っててくれるとは、そいつは果報者だろうな。
影雪子:……本当にそう思っているのなら何も言わない。
慎哉:言い訳じゃないが、たまにここで待ち合わせて里中の修行に付き合う事はある。
影雪子:言い訳じゃない。
慎哉:やましい事は全く無いから言い訳ではなく弁明だな。
影雪子:意味としては全く同じじゃない。
慎哉:気分的に違う。
影雪子:ええ、確かにそうね。


【ふとした拍子に】

慎哉:そう言えばさっき授業中に変な夢を見た。
影雪子:変? あなた自身の方がよっぽど変ね。
慎哉:少なくとも雪子に言われたくない。
影雪子:そうかしら?
慎哉:自覚症状が無いのが一番厳しい所だがそれは置いておこう。
影雪子:どうぞ。
慎哉:今日、俺の事を父親と言う奴が現れた。
影雪子:お父さん?
慎哉:ああ。
影雪子:ちなみにお母さんは?
慎哉:……凄い期待を孕んだ視線で見るな、答えは(イザ)ナミさん。
影雪子:誰よその女!?


【神話上確かにそうだった】

慎哉:あのガソリンスタンドのらっしゃーせの事だ。
影雪子:あの泥棒猫…! 私という奥さんがいながら横恋慕なんて…!
慎哉:……。
影雪子:どうしたのかしら?
慎哉:奥さん、ね。普段の雪子ならそんな事言わないだろう。
影雪子:わ、私を誰だと思っているの? 我は汝、汝は我よ。
慎哉:つまり本音をぶちまけたと。
影雪子:そう。
慎哉:……そうか。
影雪子:出来る事なら他のみんなに公表したい。
慎哉:何故?
影雪子:だってあなた今日もまた下級生に告白されていたじゃない。その度に私がどういう気分になっているのか想像付くかしら?
慎哉:通称天城越えとまで呼ばれた雪子に言われたくはないな。
影雪子:ええ、でもあなたはそうやっていつもいつも相手と時間を取っている。私にはその時間すら惜しいというのに……。
慎哉:元々この関係をみんなに内緒にしようと言ったのは俺からだったからな。
影雪子:菜々子ちゃんがいるから仕方ないけどあなたの部屋に行っても何かをする訳でもない。
慎哉:……そうか。翻弄させてたって訳か。悪い。
影雪子:い、一応言っておくけど謝るのは私じゃなくてもう一人の私じゃない?
慎哉:……それはどうかな?
影雪子:えっ?


【マジックとは常に種バレというものに怯える】

慎哉:雪子、一つだけ言っておくよ。
影雪子:何、かしら?


慎哉:カラーコンタクト、ずれているよ。


影雪子:えっ、嘘っ!?
慎哉:うん、嘘。
影雪子:……!?


【またしても彼女の罠が待っていた】

慎哉:他のメンバーが全員影だったからな。初めは疑いもしなかった。
影雪子→雪子:ど、どこから気づいてたの?
慎哉:何となく思っていた程度だったんだが、確信に至ったのは今日だけで何回、目にゴミが入ったの?
雪子:……。
慎哉:コンタクトがずれてないか確認するだけだったんだな。
雪子:じゃ、じゃあ、あの電話は?
慎哉:他のメンバーと逆だ。あっちが影雪子と見た。
雪子:……さすがリーダー。
慎哉:何でこんな事を……何となく分かる。影が言っているかのように見せかけて日頃の不満を言いたかったんだね。
雪子:……うん。交換留学の時から思ってたんだけど、そろそろみんなに隠すのは難しくなってないかな?
慎哉:ま、模擬裁判であれだけ確信に至らなくても証拠を突きつけられた時は普通に焦った。
雪子:……凄い恥ずかしかったんだから。
慎哉:だが事実だから仕方ない。


【ちょっと電話】

慎哉:そうだな、じゃあ最後の決断をするとしよう。
雪子:最後?
慎哉:ちょっと待ってね。
メティスの声:はいもしもし?
慎哉:何でメティスが出ているんだ?
メティスの声:その声はリーダー? だってまだ夕方だから当然じゃん。
慎哉:ああ、そういえばそうだったな。
メティスの声:電話が鳴ったから代わりに出たの。
慎哉:そうか、じゃあどうするべきか。
メティスの声:今彼の表情を言うとしたら『(´・ω・`)?』だって。
慎哉:声じゃ伝わるものも伝わらないぞ!


【崩れた何かが今始まった】

メティスの声:で、結局リーダーは彼に何を伝えたいの?
慎哉:……あー、まあいいか。この前頼んだ事、今日決行だが構わないか?
メティスの声:オッケーだって。
慎哉:分かった、じゃあ……。
メティスの声:ねーねー千尋ー、今日私が日直だけど、明日の日付って何日だったっけ?
千尋の声:昨日から一日増やせばいいと思いますが。
慎哉:ハッ? 生徒会長さんが何で一年生の教室に?
メティスの声:え? 何々? 千尋はクラスメイトだよ?
慎哉:ハッ? だって三年生だろ?
メティスの声:何言ってんの? 一年生に決まってるじゃん。
千尋の声:それとメティスさん、明日は20――年のMM月DD日ですよ。



慎哉:……ハッ?


メティスの声:じゃーねー、切るよー。
慎哉:あ、いや、ちょ、おい…切れたか。
雪子:……どうしたの?
慎哉:いや、聞き間違えかな?