第二次Z再世編第59話『最後の聖王』

さあ、インサラウムとの決着の為にも、火星に向かってます。
インサラウムのアンブローンは既に覚悟を決めているようで、先陣を切るつもりです。
彼女は今まで研究の為に生きてきた。
あらゆるものを捨てて、次元科学にのみ傾倒した彼女は、この年になってようやく知る事が出来た。
インサラウムの、殿下の為に研究し続けてきたのだと。
もしもの時には、彼女の研究結果を示すだけ。
その覚悟は出来ていた。
アンブローンが去り、マリリンと二人になった所で、ユーサーの化粧は崩れ落ちた。
もう彼にも時間はない。
反作用の力が強すぎるが為に、決着を付けなくてはならなかった。
偽りの黒羊を使っても、彼は自分の心を偽れなかった。
そんなユーサーに、マリリンは幼い頃見た童話を教える。


幸福の王子


ある町に幸福の王子の像がありました。
王子の身体は金に覆われ、目はサファイア、腰の剣の柄にはダイヤが埋め込まれていました。
そこへ渡り鳥のツバメがやって来ました。王子はツバメに頼み、自らの身体の金や宝石を貧しい人へと分け与えました。
美しかった王子はきんも宝石も失っていき、最後はみすぼらしい姿となってしまい、その像は壊されてしまったのです。
ですが…王子の心は幸せに満ちていた。


それは、マリリンも同様だった。
奪う事だけしか知らなかった彼女は、いつしかユーサーと出会った事で与える喜びを知った。
子供の頃、組織に頭の中をかき回されて以来、今日まで好き放題に生きてきたけど。
その言葉を喉まで出て、ユーサーには伝えなかった。
今の彼女になら、プロメテウス・エクスペリメントの後始末でエスターを助けた気持ちが分かっていた。
でも、それでも――。


彼女はユーサーの為に戦う事を選んだ。
ユーサーがこの世界と戦うというのなら、彼女は付き従うだけだ。


ZEXISは話し合っていた。
この戦いが終われば、その後に待つエキシビジョンマッチを終えれば、世界は大きく変わる。
イノベイドが作り上げた歪んだ世界は、戦乱で荒れ果て、皇帝シャルルやトレーズ、シュナイゼル、ミリアルド等によって破壊され、そのカタストロフィは皇帝ルルーシュに集約され、ゼロという記号により無へと帰した。
これからの時代に必要なのは、戦ってきた自分たちだけでなく、平和をずっと訴えてきた人たち。
インサラウムを倒し、破界の王ガイオウと戦う。
彼の過去についてはよくわからないが、分かっている事はかつて未来の災厄に備える為に生み出された事。
奴に聞けばその災厄が何か分かるかも知れない。
けれども、その為にはガイオウを倒すという奴なりの流儀に応えるだけだ。
そして、アサキム・ドーウィン。
この火星には悲しみの乙女、傷だらけの獅子、揺れる天秤、尽きぬ水瓶、偽りの黒羊がある。
最高の狩り場がこの世界の、たった一つの天体にあるのだ。
全スフィアの内半分近くを占め、アサキムを含めると半分以上を占める。
奴との戦いもまた、必然だった。
その全ての決着の為に、火星へと向かっていた。
男達は――主に苦労人同盟の面々はクロウと話し合う。
平和と自由。その片方を手に入れる為に、まずは戦うのだった。


一方、インサラウムの中でもこの戦いに疑問を持っている者もいた。
かつて自分たちの業で自分たちの世界を滅亡させ、今別の並行世界を滅ぼそうとしている。
しかし、引く訳には行かなかった。
マリリンを下がらせ、アンブローン・ジウスは戦場に出る。
ZEXISは、彼女を退け、ユーサーとマリリンを表舞台に引きずり出そうとしていた。


――アンブローンは。
自らに人造リヴァイヴ・セルを施した。
そして、ユーサーの為に戦い、死んだ。
彼女はかつて、自分に自信がなかった頃のユーサーを傀儡にし、隙あらば死なせようとしていた。
しかし、それを見破られ、あまつさえ彼は許してくれた。
その事に彼女は感謝し、忠誠を誓った。
例えZEXISが断片的な情報しか手に入れず、自分を悪の科学者と思われようと、最期までインサラウムの為に戦い、散った。
それをただ、ユーサーは見ていた。
火星にZONEを置いたのは、地球が不可欠だった。
オリジン・ローを発する恒星達の力を一つに集める得意な恒星が存在する。


ただの辺境の惑星であるが、それこそが地球だった。


地球が従う太陽の通り道である黄道。そこに並ぶオリジン・ローの星々を黄道12星座と呼んでいる。
そして、12のオリジン・ローの軌跡が生み出す力に対応して12の鍵が存在している。
即ち、スフィアの力は12星座の次元力を引き出している。
星座的にも地球は、大洋に集まった12星座のオリジン・ローを引き出すのに最適な位置にある。
だから継承者のズールは地球を狙った。
そして、火星のZONEは地球のオリジン・ローを引き出す為に作られた。


そんなユーサーに、とうとうアークセイバーやファイヤバグは下がってしまった。
幸福の王子では亡く、彼は裸の王子だと自らを自嘲した。
それでも、マリリン・キャットだけは付き従う。
例えパールファングを失ったとしても。
彼女は最期まで、ユーサー・インサラウムの為に戦った。
そうまでして、ZEXISからすれば暴君の王に付き従った者達が多くいた。
けれども、クロウは戦う。
スフィアなんて関係ない。


ユーサー・インサラウムと戦うのは、クロウ・ブルーストの意思だ。


彼は、無能にして暴虐の王を演じた。
その為に偽りの獅子を使い、皆を騙した。
いわば、皇帝ルルーシュと同じ手段を執るしかなかった。
後は救国の英雄マルグリット・ピステールがインサラウムの民を守ってくれる。
何よりも大逆の王子に虐げられてきたという事実がインサラウムの人々を同情し、この世界の人々は助けてくれると信じて。
ゼロと同じ考えに至る人間は他にもいるという事を想定出来ていたはずなのに。
それほどまでに、偽りの獅子を使ったユーサーは嘘を見抜けないようにした。
王たる者の責務として、まずは民を一番に考えた末の行動だった。


そんなユーサーを、クロウは絶対に認めない。
例えどんな理由があろうとも、民と自分の命を安く見積もり、手段を顧みなかったユーサーのやり方を認める訳には行かなかった。


クロウ「借りた金は、きちんと返すしかねえんだよ。盗んだ金で返そうとするのはナシなのさ」


こうして、ユーサー・インサラウムは、現れたアサキムにスフィアを奪われた。
土は土に、灰は灰に、塵は塵に。
彼の最後の言葉は、付き従ってきた国の民達の名前だった……。


ユーサー……。


ここが最後の戦い。


いや、真の戦いの始まりだった。


染みついた傭兵としての癖は、マリリンに簡単に死ぬ事も許さなかった。
インサラウムの戦艦の残骸の中で、彼女は最期を迎えようとしていた。
幸福の王子の話の中で、ユーサーは王子だった。
そして、ツバメはマリリンだった。
マリリンはふと思い出す。
ツバメも最期には死んでしまう事を。
自己満足の果てに取り壊された王子の像だったが、ツバメもきっと幸せだったに違いなかった。
だって自分はこれから死ぬのに、幸せだったのだから……。